更新日:2025年9月26日
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ぼくとタロウ(仮名)は電車で隣同士に座り、テスト対策のために参考書を黙々と暗記していた。だんだんと混み合ってきて「今日は何だか人が多いなあ」と話していると、こどもの泣き声が響いた。
声の方向を見ると、大荷物を抱えた女性がベビーカーに乗せた赤ちゃんを何とかあやそうと声を掛けていた。けれども、泣き声は大きくなるばかり。赤ちゃんは泣き止むとはとても思えなかったし、女性も困り果てた様子だった。タロウがため息をつきながら「集中できないな」とひそひそ小声でぼやき、ぼくも「どうなるんだろうね」と続けた。
すると、女性のすぐ近くの席に座っていた男性がゆったりと立ち上がった。何か言われるに違いないぞと思いながら見ていると、男性は「お母さん、ここに座ってこども抱っこしてあげて。ベビーカーはわたしに任せて、荷物もここに載せて。大丈夫だから」と優しく声を掛けたのだ。女性はほっとした表情になり、それを見ていた周りの人たちの雰囲気も一気に柔らかくなった気がした。自然な行動が何だかとても格好良くて、ぼくとタロウは、気まずくうつむいたまま、到着駅まで無言だった。
その日の放課後、ぼくとタロウは駅までの道のりを歩きながら「今朝の電車での事が1日中頭から離れなかったんだよな」「ぼくらもあんなふうになれるかな」なんて話していたとき、地図を眺めながら困っている様子の年配の人とすれ違った。
「どうする…?」「勇気いるけど声掛けてみようか」「そうだな『何かお手伝いできることはありますか』で、いいよな?」ぼくたちはうなずき合った。来た道を戻りながら、2人で年配の人の背中を追いかけた。
相手の立場を考えた行動が、誰かの心を動かし、誰もが生きやすい社会をつくるきっかけになるかもしれません。