更新日:2022年9月1日
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最近祖母は足腰が弱くなりました。わたしは「一人で出歩くのは心配だから、どこかに行くときは、必ず言ってね」と言うのですが、祖母はよく一人でも出掛けているようです。
ある日、祖母が美容室に行くと言うので、わたしはついて行くことにしました。狭い歩道では、ゆっくり歩く祖母をすれ違う人たちが待ってくれて、そのたびに後ろを歩くわたしは「すみません」と言いながら歩きました。そんなわたしの姿を見て、祖母は「ごめんねぇ、ありがとう」と言うので、「大丈夫だよ」と返事をしていました。
祖母は、美容師さんとたくさんおしゃべりをしながら髪を切り終えた後、自分の姿をいろいろな角度から鏡に映して見て、とても満足そうにしていました。美容室を出ると、祖母の友人にばったり会い、「すてきな髪形。似合ってるわ」と言われた祖母は、笑顔で「うれしい」と答えました。その後も、祖母は友人としばらく服装やおしゃれの話をして、後日一緒に出掛けてお茶をする約束をしたようでした。別れ際、「お話できて楽しかった。また今度ね。体にも十分気を付けるのよ」と言って去っていこうとする友人に、祖母は「ありがとう」と返したのです。
わたしは、そのとき、はっとしました。わたしに言う「ありがとう」と違う響きに聞こえたからです。友人は、祖母の容姿の変化に気付きすぐ声を掛けて褒めていました。その後も、自然に会話を楽しみ、出掛ける約束をして、最後には体の心配までしていました。一人の人として向き合う友人の姿によって、祖母が生き生きとしていたのではないかと感じたのです。
友人と別れた後、祖母と並んでゆっくり歩く帰り道は、いつもと違う景色に見えました。美容師さんが言った「あなたが小さい頃は、おばあちゃんがよく手を引いて連れて来ていたのよ」の言葉が心に残っています。自分らしく生きる祖母を、これからも応援したいと思っています。
自分のものさしだけで考えずに、相手の思いに寄り添うことが大切ではないでしょうか。